情けない魚2004.7.8

「ブラックバスって、なんでも食べちゃう悪い魚でしょ」
 バス釣りが趣味だというと、こんな言葉が返ってくることがよくある。
 はたしてそうだろうか? 自問しても「否」であるとしか考えられない。そして、この答えは長年釣りを通じて観察してきたブラックバスの姿から導き出されたものだ。
 この釣りを知らない人から見れば、ブラックバスは凶暴で何でも見境なく襲うから、オモチャみたいなルアーなんかで釣れるのだと思われているらしいのだが、現実の釣りは、その正反対。そんなに簡単なものだったら、バス釣りが、こんなに楽しいものにはならなかったろう。
 たとえば、ワカサギなどの群れに寄り添うように付いているバスがいる。ところが、群れの中に突進して食欲を満たそうとするバスはいない。弱って脱落した個体を食べているらしいのである。これは、多くの肉食魚に共通した性質であるらしく、ルアーの名作「ラパラ」の生みの親ラウリ・ラパラの言葉を借りれば
「やられるのは、いつも決まって弱っている小魚だってことに気が付いた。獲物になる小魚は、動きやリズムが群れと少し違うやつなんだ。その差がわかってきたら、次に狙われる魚がどれだか言い当てられるようになった。それ以来、ルアーのデザインは、そのちょっとした動きの差というのを基本にして作ってきたわけさ」
 なのである。
 群れに付いているバスを釣るにはちょっとしたコツがいる。群れから少し離れたところでルアーにアクションを与えるのである。もちろん、必ず成果を上げられるわけではないが、ホントの餌よりルアーに反応してしまう魚がいることは事実だ。
 何でも食べちゃうからルアーまで襲っちゃうわけではない。
 それに、ブラックバスは泳ぎが下手だから、ワカサギが本気出して泳げば追いつくことすら出来ないのではないだろうか。ダム湖などで、オイカワを追いかけてボイルするバスを見ることがあるが、成功したところを見たことがない。ライオンの狩りの成功率は20%台だと聞いたことがあるが、バスの場合は恐ろしく低いこと確実だ。
 十年以上の長きにわたってバスの姿を撮り続けてきた水中写真家の森文俊氏によれば、バスは餌取りが下手な情けない魚なんだそうである。その証拠に、バスが餌を食う瞬間をフィルムに収めたことがないどころか、見たこともないと言う。グレン・ロウという写真家が撮ったブルーギルを襲うバスの写真があって、ブラックバスは悪い奴だから、そういう瞬間を撮ってやろうと思ったらしいのだが、実際の姿を見て考え方が変わったとも言う。ちなみに、グレン・ロウの写真は撮影用の巨大水槽の中で撮られたもの。
 ブラックバスは胸びれを使ってホバリングしたりバックしたり、物陰に潜むための泳ぎは上手くても、狩りのための泳ぎはダッシュ一発だけでお粗末らしい。
 我が国でも、専門家によるブラックバスについての研究が始まった。そのデータの空胃率の高さを見て、ああ、なるほど、やっぱりなぁなどと思ってしまう。研究者にとってはブラックバスの胃の内容物が食性を知る上で重要なのだろうが、釣り人にとっては、その内容物がどんな状態で食べられたのかが重要なのだ。
 それから、バスは卵や稚魚を守るから繁殖力が強いって言われている。たしかに、こんな繁殖戦略を持つ魚類は、日本ではオヤニラミなどを除いて、ほとんどいない。この習性が有利に働くのは間違いないだろうけど、透明度の高い芦ノ湖なんかで見ていると、一概にそうは言い切れぬものを感じてしまう。ブラックバスは見通しのいい砂地なんかに産卵床を作るんだけど、でっかいコイの群れに襲われれば一発でアウト。そうでなくても、卵を食べに来た魚を追い払っている隙に、ヨシノボリがいっぱい湧いてきてバスの卵を頬張っている。バスの格好の餌が、バスの卵を食べるという下克上が行われている。生態系の説明で食物連鎖のピラミッドが引き合いに出されるが、現実はあんなに単純なものではなさそうだ。
 せめて、日本の魚のように水草の中に卵を産み付ければとも思うが、魚にはそんな知恵があるはずもない。
 やっぱり、バスって情けないトホホな魚? なんて思ってしまう。
 だから、バスがいてもいいというのは短絡。でも、あまりに実際の姿とかけ離れたことを言われると、この魚を愛するものとして、せめて、これくらいのことは知って欲しいと思うのである。


CGI-design